バスは高速道路を降りて一般道に入った。左側には豊かなRiver Tummelの流れ。そして右側にはScotlandらしい丘陵が続く。しばらくすると黒っぽく変色したBlair Athol Distilleryのウェアハウスが見えてきた。そろそろ到着だ。
Pitlochryはメインストリート1kmぐらいの中にほとんどの施設がある小さな町だ。しかしこの町は観光地として非常に人気が高い。その美しさはScotlandのすべての魅力を備えているといわれる。
その美しさを満喫しようとEdradour Distilleryまで徒歩で行ってみた。なだらかな丘陵地の牧草地帯を4km程歩いてようやく到着した。途中の眺めは素晴らしかったが肩のカメラバック(約10kg)がなければ、さぞ快適なウォーキングだっただろう。
そしてこの町は日本人ともつながりがある。夏目漱石は2年間英国に留学したのだがLondonでの生活はあまり気に入らなかったようだ。しかしその滞在の最後の2週間を過ごしたPitlochryは気に入ったらしく、"昔"という短編に書かれている。
夏目漱石は町から少し離れた、招待を受けた地元の名士の屋敷に滞在していた。それは現在、Dundarach Hotelとして現存している。宿泊はしなかったがレストランがあるので夕食を食べに行った。
非常に眺めのいいレストランはすべてのテーブルから美しい風景が見えるようになっている。さて、何にしようかとメニューを眺めていると、Starterの中に気になる一品を見つけた。
"Tempura Prawn"と呼ばれるその料理はひょっとして・・・まさかエビの天ぷらじゃないやろう。(PrawnはShrimpと同意語)
"Tempura"とはどういう意味かとスタッフに尋ねると知らないとのこと。しかし油で揚げたエビだという。日本で言うところのエビフライはDeep Fried Scanpiになる。となるとやっぱり天ぷらだろうか。日本人として食べてみなければならない。
そして運ばれてきた料理はエビの串カツだった。串カツと言ってもパン粉をつけないタイプで新世界でこういうスタイルで売っている串カツ屋もあると聞く。
少し酸味のあるビネガーソースで食べるエビの串カツはとてもおいしかった。オードブルとしての量もちょうどいい。しかしこんな小さなエビに串を刺して油で揚げるという手間のかかることは日本ではしないだろう。でもScotlandで"Tempura"に出会えるとは思っても見なかった。その他にオーダーしたスティルトンとセロリのスープ、ローストラムのミントソース添えもとてもおいしかった。
おいしい食事の後にはおいしいモルトで仕上げをしたいものだ。ここは言うまでもなく、Blair Athol Single Malt Whisky。蒸留所のすぐ近くにあるDundarach Hotelのディナーの締めとして、これほどふさわしい物はない。場所をHotelのLounge Barに移してリラックスした気分でBlair Atholを飲む。
"夏目漱石もこうやってBlair Atholを飲んだんやろうなぁ。ひょっとしたら、この部屋で飲んでたかも。"
Scotlandに来る前に多古吉郎氏の"スコットランドの漱石"という本を読んだ。その中で日本人で初めてSingle Maltを飲んだのは漱石ではなかったのかと氏は述べている。これはモルト飲みとして興味深い話だ。
初めてScotlandを訪れた日本人としては岩倉具視や伊藤博文の使節団が漱石より30年前に来ている。一行はHighlandにも3日間だけ滞在したというが主にEdinburghやGlasgowで当時世界で最も進んでいた工業地帯の視察を行った。この時にビール工場も視察したという記録は残っているがウィスキー蒸留所を訪れたという記録はない。
そして岩倉具視一行はこの時にOld Parrを持って帰ってきて日本に広めたという事実があるので飲んだとしても当時主流となりつつあるブレンデッドウィスキーだったと考えられる。
漱石はBlair Athol Distilleryのすぐ近くに滞在していたし、当時の家主は地元の名士。蒸留所との付き合いもあったと考えられるし、自宅でもBlair Atholを飲んでいた可能性はある。というよりも、当時の流通事情から考えるとPitlochryではBlair Atholが一番入手しやすいウィスキーだったと思われる。夏目漱石が飲んでいない可能性のほうが少ないのではないだろうか。
私は家主が漱石にウィスキー(Blair Athol)を勧めたと思う。そしてその味に感動した漱石は次の日、蒸留所を訪れているはずだ・・・酔っぱらいの想像は尽きることがない。
さて、私は漱石から数えて何人目のモルト飲みなのだろうか。
Slainte!
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