この冬、一番の寒気団がやって来ると天気予報が伝えていた1月31日、私は初めての中国へ向かう飛行機の中にいた。目的地は大連、当然のことながら仕事での出張だ。誰も好き好んでこの時期の大連に行く人はあまりいないだろう。何せ、大陸からの寒気団は大連あたりを通過して日本にやって来るのだから。
フライトは順調で予定通り大連周水子空港に到着。雪がないので窓から景色を見る限り寒く感じないが、空港を出るとそれはもう強烈な冷たい風が吹いている。日本人は寒い所=雪と連想するが、雪がなくても寒い所は寒い。
現地の人がほとんど顔を覆うフードつきのジャケットを着ているのもわかる。しかし私は自分のスタイルを変えたくない。いつもながらのソフトハットにトレンチコートだ。さすがにライナーは付けたが顔や耳が冷たい。
車での移動がほとんどなのでだいじょうぶだろうと思った私が甘かった。訪問先のオフィスでミーティングを始めるも、太ももあたりが寒い。外が寒けりゃ窓を通じて寒さが室内に入る。来る前に買い求めたUNIQLOの防寒タイツを着とけばよかったと後悔した。ホテルにチェックインする時に置いてきてしまったのだ。(UNIQLOでこんなものまで売っているとは思いもしなかったが)
こんな寒い思いをするのだから何か楽しみがないと仕事などやる気にならない。いくら仕事とはいえ、1日3回は食事をするわけであって、いくら仕事とはいえ、せっかくの中国なんだから地元のおいしいものを食べる楽しみぐらいあってもいいだろう。人間は食べないと生きていけないのだ。
初日は海鮮料理のレストランに連れて行ってもらった。大連は港町なので海産物がおいしいとのこと。
"まずはビールでいいですか?"
と気を使ってくれたのだが、ここまできて日本式はだめでしょう。ここは一つ中国式でいかないと。
"すいませんが白酒というのを飲みたいです。中国の皆さんはこれで乾杯するのでしょう?せっかくだから乾杯しましょう。"
こういうときの頭の回転は自分でも驚くほど速い。と同時に頭の中から遠慮や気遣いといった言葉はきれいさっぱり消え去る。
"だいじょうぶですか?これはアルコール度数50%ですよ。"
こんなことを言い出す日本人は少ないのだろうか、ちょっと驚いたようだ。
しかし驚いたのは私も一緒。白酒のアルコール度数がそんなに高いとは思っていなかった。日本の焼酎をイメージしていたので30%ぐらいかなと思っていたのだが・・・。中国の"干杯"は文字通り飲み干さねばならない。でもここまできて後には引けない。小さなショットグラスだから何とかなるか。ちなみにこの段階では一緒に行った同僚の中に飲めない人がいることなんかすっかり消え去っている。
"だいじょうぶですよ。私が好んで飲むScotch Whiskyの中には60%を超すのもありますし・・・多分"
ショットグラスに白酒が注がれた。華やかな香りが立ち上る。おぉ、これは期待ができるぞ。
"では、干杯!"
一気に飲み干す。アルコールの強さはあるが非常に飲みやすい。そして後から何か子供の頃の記憶の中にあったような味わいが残る。
"これは素晴らしいお酒です。"
次の一杯はじっくりと味わおう。蒸留酒特有のキレがあり余韻も長い。そして子供の頃を思い出させるような味わいだ。これは世界のどの蒸留酒と比べても遜色はない。
"この店のビールもおいしいですよ。自家醸造ですから。"
と言われれば飲まねばなるまい。なるほど、炭酸は弱めでフレッシュな味わいだ。しかしこのビールをチェイサーに白酒を飲むのは結構ハードだ。
"黒ビールもあるんですが飲んでみますか?"
断る理由などどこにもない。遠慮という言葉など私の辞書からも消えている。飲んでみると非常に軽めのLight Aleといったところか。料理とは合わせやすい味だ。
魚介類をメインに使った料理はどれもおいしく、どの酒とも相性がいい。伊勢海老の造りが出てきたときには驚いたが、これは日本のスタイルを取り入れたとのこと。中国の人たちにとってうまいものに国境はないようだ。
2日目はもう少し地元色の濃いレストランに連れて行ってもらった。(誤解なきように付け加えると昼間はちゃんと仕事をしていたことをお忘れなく・・・)
昨日と同じく白酒で干杯!といきたかったが、このレストランは農村をテーマにしているのでグラスではなく、小ぶりのご飯茶碗で飲み物を飲む。さすがにこれで飲み干すのは危険だ。ビールもこの茶碗で飲む。大連で作られているという緑色のボトルの地元のビールもなかなかおいしい。中国では各地方にビール工場があるようだ。
このレストランの味付けは昨日のよりも濃く、スパイシーだ。炒め物も結構辛めだし、サラダにも香菜が効いていた。炒め物に入っていたピーマン自体も辛味があってどちらかというと唐辛子っぽい。でもそういった味がさらに白酒をおいしくする。気がつけば500ml入りのボトルは空になっていた。ちょっと飲みすぎたかも・・・記憶がちょっとあやしい・・・
しかし、いい酒に悪酔いはない。翌朝は目覚めすっきりで最終日を迎えた。夕方には中国を離れる。その前にもう一つ、食べておきたいのが刀削麺。テレビなどでたまに放映されている、生地を削って作る独特の麺だ。
オフィスの近くにあるということでお昼に連れて行ってもらった。(再び誤解なきように付け加えると午前中はきっちりと仕事はしていたことをお忘れなく・・・)
広くない調理場では青年が一人で麺を削っている。さすがにランチタイムは忙しそうだ。メニューを見るといろいろあってさっぱりわからん。結局牛肉の汁そばを注文した。スープはしっかりした醤油味でボリューム満点、野菜もたっぷりで香菜が効いている。トマトが入っていたのにはびっくりしたが、これがまたいいお味。これで6元(約70円)は素晴らしい。唯一理解できたメニュー、水餃子を頼むと30個ぐらい出てきた。5元(約60円)だから1人前と思って注文したのだがこの量には驚かされた。さすがに全部食べきれず、残してしまったが刀削麺は完食。麺だけでもおなかいっぱいになるぐらいの量だった。
というわけで、初めての中国飲み歩き・・・いや、中国出張は当初の目的を達成して無事終了した。自分にとって大きな経験になったことはまちがいない。そして仕事の合間に楽しんだ中国の酒や料理、そして人々との出会いは私に素晴らしい時間を与えてくれた。
酒は現地で飲むのが一番うまい。中国も例外ではなかった。また、行く機会はあるだろう。次回は時間を作って写真を撮るとしよう。今回は仕事が忙しくて写真を撮ることが出来なかったから。
くどいようだが中国へは仕事をしに行った訳であって誤解なきように付け加えると・・・中国で飲む白酒は最高だった。
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